下の歯の矯正費用はいくらかかる？治療法別の特徴と注意点

鏡を見たときに「下の歯だけガタガタしている」「上の歯は気にならないけど、下だけ治したい」と思ったことはありませんか？
実は、こうした「下の歯だけ矯正したい」というニーズは非常に多く、矯正歯科でも対応が可能です。

ただし、部分的な矯正でも費用や治療期間、適応条件などに注意が必要です。
今回は、下の歯の矯正にかかる費用や治療法の選び方などについて、紹介していきます。

下の歯が気になる場合、多くの人は見た目が気になるという人が多いかもしれません。
ガタガタに歯が生えている、歯が斜めを向いて生えているなど、口を開けた時の印象にも関わる歯です。

しかし、下の歯の問題は単に見た目の問題にとどまらず、日常生活のさまざまな場面に悪影響を与える可能性があります。
たとえば、滑舌が悪くなったり、噛みづらさを感じたり、顎に負担がかかったりすることもあるのです。

下の歯は、上の歯とぴったり噛み合うことで、食べ物をしっかり噛み砕き、栄養を効率よく摂取するために重要な役割を担っています。
しかし、歯並びが乱れていると、噛み合わせがズレやすくなり、日常の食事でも噛みにくさや違和感を覚えることが増えてしまいます。

噛み合わせのバランスが崩れると、上下の顎に偏った力がかかるようになります。
その結果、顎関節症を引き起こしたり、慢性的な頭痛、肩こり、姿勢の悪化といった全身への不調につながる可能性も。
口の中の問題が、思わぬ形で身体全体に影響を及ぼすことは、意外と知られていないポイントです。

歯並びは発音にも関係します。
特に下の歯が不揃いだと、舌の動きが制限され、「さ行」や「た行」の発音が不明瞭になることがあります。
人と話す機会が多い職業の人や、学校生活で発表が多い学生にとっては、自信の低下やストレスの原因になることもあるでしょう。

下の歯だけの歯並びが気になるのはどのような原因があるのでしょうか。
主な原因を見ていきましょう。

現代人は、昔に比べて顎が小さい傾向にあります。
そのため、歯が生えるスペースが不足し、歯が本来の位置に並びきれずに前後左右にズレてしまうことがあります。

また、上顎と下顎の骨格のバランスが取れていないと、噛み合わせのズレが生じ、下の歯列にも影響を及ぼす可能性があります。

歯が大きく、顎の幅とのバランスが取れていない場合も、歯並びの乱れの原因となります。
特に前歯が大きいと、まっすぐ並ぶスペースが確保できず、押し合うようにしてデコボコに生えてくることが多くなります。
これは遺伝的な要素が強い部分ですが、早期に矯正でスペースを調整することで改善が可能です。

10代後半から20代にかけて生えてくる親知らずが、隣の歯を押してしまうことで歯列全体がずれてしまうことがあります。
特に下の奥歯に影響を与えるケースが多く、前歯まで押されて歯並びが悪化することも珍しくありません。
親知らずが原因である場合、抜歯を含む対応が必要になることもあります。

小さい頃の指しゃぶり、頬杖、舌で歯を押す癖などは、歯並びに大きく影響を与えることがあります。
特に舌癖（ぜつへき）と呼ばれる、舌が前歯を押す癖があると、前歯が前に突き出てしまったり、下の歯が押されて内側に傾くことがあります。
こうした習慣は無意識で行われていることが多く、専門的な指導やトレーニングが必要な場合もあります。

これらの原因は単独で起こることもありますが、複数の要素が複雑に絡み合って下の歯列の乱れを引き起こしているケースが多く見られます。

たとえば、顎が小さいうえに舌癖があると、歯が並ぶスペースがさらに不足し、乱れがひどくなります。
自分では原因を特定するのが難しいため、歯科医院での正確な診断が非常に重要です。

「下の歯だけを整えたい」という希望に応える治療法が部分矯正です。
部分矯正とは、上下すべての歯を動かす全体矯正とは異なり、一部分の歯だけを動かす治療法のため、治療にかかる費用や期間を抑えられるのが大きな特徴です。
中でも、下の前歯のガタつきや、すきっ歯といった、限られた範囲の歯並びを整えたい方にとっては、良い選択肢になります。

部分矯正は、動かす歯の本数が少ないため、全体矯正に比べて治療期間が短い傾向にあります。

症例にもよりますが、一般的な治療期間の目安は以下の通りです。

• 軽度のデコボコ・ねじれ： 約3〜6カ月
• 中等度の歯列不正： 約6カ月〜1年
• 保定期間（リテーナー装着）： 6カ月〜2年 ※

※治療完了後も、歯の位置を安定させるために保定装置（リテーナー）を装着する期間が必要です。

これを怠ると後戻りしてしまう可能性があります。

下の歯だけを整える部分矯正は、全体矯正に比べて治療の範囲が限定されているため、比較的安価に治療を受けられるのが特徴です。

しかし一口に部分矯正といっても、使用する装置によって費用や見た目、装着感、治療効果の特性が異なります。
それぞれの装置の特徴と費用の目安を知ったうえで、自分に合った方法を選ぶことが大切です。

▪️ワイヤー矯正（表側）：20万〜40万円

表側にブラケットとワイヤーを装着する、最も一般的な矯正装置です。

歯を1本ずつ精密に動かせるため、コントロール性が高く、部分矯正でも微調整がしやすいのが特徴です。
見た目が気になるというデメリットはあるものの、比較的リーズナブルな価格で確かな治療効果が得られるため、コスト重視で選ぶ方に向いています。

また、透明や白いブラケットを使えば、ある程度目立ちにくくすることも可能です。

▪️マウスピース矯正：30万〜50万円

透明なマウスピース型の矯正装置を使って歯を動かす方法です。

見た目の自然さや装着時の快適さから、審美性を重視する方に人気があります。
取り外しができるため衛生的で、食事や歯磨きの際に邪魔にならないのもメリットですが、適応できる症例がやや限定されるため、すべてのケースで使用できるわけではありません。

下の歯の軽度なガタつきやねじれ、すき間の調整であれば、十分に対応できる可能性があります。

▪️裏側矯正（下の歯のみ）：40万〜70万円

歯の裏側に装置を取り付けるタイプのワイヤー矯正で、外から見えない点が最大の特徴です。

見た目に配慮しつつもしっかり歯を動かしたい方に向いています。

ただし、装置が歯の裏にあるため違和感が強く、慣れるまでに時間がかかることもあります。

また、費用は最も高めで、調整もやや難しい傾向にあるため、経験豊富な矯正歯科での治療が必須です。

▪️その他にかかる費用

• 初診・検査料： 2万〜5万円
• 調整料（月1回）： 5,000〜10,000円
• 保定装置（リテーナー）： 3万〜5万円

これらをすべて含めると、下の歯だけの部分矯正でも、総額で30万〜60万円程度を想定しておくと安心です。

部分矯正と全体矯正の大きな違いは、治療する歯の範囲と目的の広さです。

部分矯正は主に前歯の見た目を整えることを目的としており、奥歯を動かす必要がないケースや、噛み合わせに大きな問題がない人に適しています。

対して、全体矯正は上下の歯列全体を動かし、見た目だけでなく噛み合わせのバランスや機能まで改善することを目的としています。

また、費用と治療期間にも大きな差があります。

部分矯正が30〜60万円・3カ月〜1年程度で完了するのに対し、全体矯正は70〜120万円以上、期間も1年半〜3年ほどかかることが一般的です。

見た目だけ整えたい方には部分矯正が適していますが、噛み合わせまで含めた根本的な改善を希望する方には、全体矯正がより適した選択肢となります。

部分矯正は誰にでも適用できるわけではありません。
適応条件を満たしているかどうかは、医師の診断によって判断されます。

• 下の前歯に軽度〜中度のガタつきがある
• 噛み合わせ（上下の歯の接触）が大きく乱れていない
• 上の歯並びがすでに整っていて、上下のバランスが取れている
• 前歯の見た目を整えたいだけで、奥歯の移動は不要

部分矯正が向いているのは、歯並びの乱れが軽度〜中度で、前歯のみを整えたい場合です。
たとえば下の前歯にだけガタつきがある、すき間が気になる、歯がわずかにねじれている、といった症状であれば、部分矯正で十分対応できる可能性があります。

また、噛み合わせが安定していて、奥歯の移動が不要な方にも適しています。

• 骨格由来の不正咬合（受け口・出っ歯・過蓋咬合など）
• 奥歯を含めた噛み合わせに大きなズレがある
• 上下の歯がバランスを崩しており、咬合全体の調整が必要
• 歯列全体にわたる重度のデコボコ・叢生

一方で、上記のような部分矯正では対処しきれないケースも少なくありません。
上下の歯のバランスが大きく崩れている場合や、骨格的な問題（出っ歯・受け口・過蓋咬合など）がある場合には、全体矯正によって咬合全体を調整する必要があります。

また、奥歯の噛み合わせにずれがある、あるいは歯列全体に重度のガタつきや叢生が見られるような場合も、部分矯正では十分な効果が期待できません。

下の歯の矯正は、見た目の改善はもちろん、噛み合わせや発音といった機能面のトラブルを防ぐためにも大切な治療です。
特に軽度〜中等度の歯列不正であれば、部分矯正によって比較的手軽に整えることが可能です。

ワイヤー矯正やマウスピース矯正など、装置によって費用や治療期間は異なりますが、いずれにしても下の歯だけの部分矯正であれば30万〜60万円ほどが相場です。
適応条件や装置の選択によって結果が左右されるため、まずは専門の歯科医院で診断を受け、自分に合った治療法を見つけることが大切です。